おっぱいからの卒業『乳房のくにで』深沢潮

21世紀目前、福美は困窮していた。抱えた娘の父親は行方知れず、頼る実家もなく、無職。ただ、母乳だけはあまるほど出続ける。それに目を付けた、母乳を欲しがる家庭に母乳を届ける活動をしているという廣田に福美はナニィ(乳母)として雇われることに。すると、かつての同級生の政治家一家から、ナニィの指名が入り……。
ひとはいつ「母」になるのか。母乳によって子を手放した女と母乳によって母となり得た女の視点から、母性を描いたサスペンスフルな長編。 

 

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おっぱいが出ないことで母親失格の烙印を押された女と、おっぱいが出ることで利用された女。

対象的な二人は、家父長制の権化のような徳田一家の家長と、その家長に長年「女」として仕えてきた妻により、対立させられてしまう。

 

その後時が経ち、当時のわだかまりが解けたように思えたころにも、社会的地位の確立した力を持った女に対し、女としてケア役を務めることで生計を立てるしかない女が苛立ちを覚える描写があり、いわゆるキラキラ系フェミニストと、市井のフェミニストとの間の意識の差が明示されているところが素直で好感を覚えた。

 

全体的にサスペンス仕立てでハラハラする展開なのに加え、登場する女性たちがだんだんと自らが苦境にいる要因ーー家父長制ーーに気づき始め、少しずつ連帯していく姿を見ることができ、何重にも満足できるような作品だ。

ラストはあまりに楽観的というかご都合主義的と感じたが、そもそも女性たちがつながる作品自体が少ないのだから、読後感スッキリ、ハッピーに終わる作品があっても良いのだと思う。

 

個人的には、子供ができ自分が育児をする段になったときにまた読んでみたら感想が変わるのだろうなと思った。

 

★★★☆☆