エリザ・ヒットマン監督『17歳の瞳に映る世界』
新鋭女性監督エリザ・ヒットマンが少女たちの勇敢な旅路を描き、第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞したドラマ。友達も少なく、目立たない17歳の高校生のオータムは、ある日妊娠していたことを知る。彼女の住むペンシルベニアでは未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。同じスーパーでアルバイトをしている親友でもある従妹のスカイラーは、オータムの異変に気付き、金を工面して、ふたりで中絶に両親の同意が必要ないニューヨークに向かう。性的アイデンティティに悩む青年を描いた「ブルックリンの片隅で」で2017年サンダンス映画祭監督賞を受賞し、一躍注目を集めたエリザ・ヒットマンの長編3作目。「ムーンライト」のバリー・ジェンキンスが製作総指揮に名を連ねる。
2021年7月16日公開の作品。TOHOシネマズシャンテにて鑑賞。
中絶措置を受けるため従姉妹同士でNYまで向かうロードトリップの物語。
余計な展開を削ぎ落とした極めてシンプルなストーリー、必要以上に言葉を交わさない彼女たち。
彼女たちの視線・心の動きがクリアに映し出される。
オータムを尊重しない彼氏、ミソジニストの父親、保守的な医者等に半ば絶望を感じていた彼女は、NYのクリニックでやっと真っ当な大人たちと出会うことができる。
傷ついているはずの彼女に寄り添える大人の何と少ないことか。
それまで眠りに身を任せることへの不安が何度も描かれる分、最後に安心して体を任せることができるシーンの重要性がわかる。
田舎の高校生ふたり、キラキラしていないふたりの視点で見る、冷たい都会としてのNYの描写も面白かった。
ぶっきらぼうなザ思春期みたいな物言いをしてしまう年代でこんなにも重い現実に向き合う必要がある、という辛さ。
プロミシングヤングウーマンのキャシーもぶっきらぼうなキャラクターだったが、いつも愛想よくニコニコしているスカイラーに対して常にぶっきらぼうなオータム。それだけで男からの扱いがハッキリ違う。
スカイラーもうまく生き抜くための処世術として愛想を身につけてるのが辛い。
男性からの舐めるような視線に辟易しながらも、必要なときにはそれを頼らざるを得ない痛みは、女性ならば身に染みているのではないだろうか。
この映画を観て痛いほど感じたのは、妊娠を巡る諸問題における男女の非対称性。
妊娠のためには男女両方の働きかけが必要なのに、なぜ女ばかりこんなにも責められ苦労しなければならないのか。
ドラマティックな展開ではないからこそ、この物語の普遍性ーーどこでも起こりうる話だということが示されている。
大変な良作だったのだが、文句をつけるならば、やはり邦題だろう。
原題を直訳するのが難しかったのはわかるが、原題が作中の重要なシーンとリンクする以上、ニュアンスだけでも邦題に反映してほしかった。
また、シンプルなストーリー、構成でも画面が華やいでいたのは、演出の力もさることながら、主演二人が美しい白人女性だったことも大きな要因としてあるだろう。
エスニックマイノリティや、多様な体形・見た目の女性が起用されていたらまた違った印象になっていたのだろう。
とはいえ、劇場まで足を運び観る価値が十分にあった作品だった。
個人的には駅のポールで二人が手を繋ぐシーンがお気に入り。
★★★★☆
(追記)
本作の撮影には、Kodakの16mmフィルムが使われている。
フィルムの質感を楽しむためにも、劇場に足を運ぶ価値があるのではないだろうか。