脱北者の闘いは続く『ファイター、北からの挑戦者』
韓国・ソウルで新たな人生をスタートさせた北朝鮮からの脱北者の女性がボクシングと出会い、生きる希望と勇気を取り戻す姿を描いたドラマ。ソウルの小さなアパートにたどり着いた脱北者のリ・ジナ。残してきた父を呼び寄せるため多くのお金を稼ぎたい彼女は、食堂と清掃の仕事を掛け持ちする中で、ボクシングジムの館長とトレーナーのテスと出会う。悲惨な過去と怒りを抱えるジナは彼らに対して壁を作るが、館長とテスはそんな彼女の中に静かに燃えるファイティングスピリットを感じ取る。ボクシンググローブを手渡されたジナは、次第にボクシングの世界にのめり込んでいく。
(ファイター、北からの挑戦者 : 作品情報 - 映画.com)
Fan's Voiceさんのオンライン試写会で鑑賞。
監督のユン・ジェホさんは自身が韓国から単身フランスに出てきた経験から、異国の地でどう生きていくかということに問題意識があるようで、2016年には脱北者の暮らしを追ったドキュメンタリー映画を作成している。
本作は監督にとって初めてのフィクション映画だという。
北朝鮮という実態がベールに包まれている国家で何が起きているのか、そこから逃げてきた人たちにはどのような暮らしが待ち受けているのか…。
北朝鮮に関する映画を観るのは初めてで、普段はなかなか知ることのできない世界を垣間見れたような気がした。
作品自体はボクシング映画ではあるものの、ドラマチックな展開は排除され、ジナの心の動きにフォーカスした非常に静かなつくりとなっている。
以下簡単に感想をまとめる(ネタバレあり)。
主人公ジナに賃貸を紹介してくれた男は、最初はいかにも親切そうにふるまうが、次第に馴れ馴れしい態度を取り、ジナの弱みに付け込むような言動を取り始める。
こういう逆上してくるタイプの男、いるわぁ…だからむやみに男と絡みたくないんだよな…と苦い気持ちで観ていたのだが、
理不尽な要求をされても助けを求めるすべがなく、従うしかない立場に追い込まれてしまうジナの姿に、社会的弱者が搾取される構図を見出し、重苦しさを覚えた。
ジムでは意地悪な女性3人組と対立することになるのだが、正直これはあまりにも安直。このプロットは見飽きたのでもうおなかいっぱいです。という感想。
格闘シーンも特にこれといって面白味はなく…。キャットファイトにはもううんざり。
また、シスターフッドをひそかに期待していたので、優しく理解ある男性2人に導かれ段々と周囲に心を開く…という展開に、いいんだよ、いいんだけどそっちか。。。となった。
全体的に『百円の恋』ととても似ている本作。
『百円の恋』ではボクシングを通じ成長した後もなぜかクソ男についていこうとするのが本当に理解できなかったのだが、その点本作は、男性を追うことが軸ではなかったのが良かった。
いつか、周囲の男性と番うことなく、むしろ置いてけぼりにするくらいパワフルな女性の格闘映画が観てみたい。
何はともあれ、とにかく主演のイム・ソンミの圧倒的演技力だけでも観る価値がある本作。
監督の次回以降の作品にも期待が持てる。
★★★☆☆