「良妻賢母」神話を歌って吹き飛ばす『5月の花嫁学校』

フランスを代表するオスカー女優ジュリエット・ビノシュ主演、「ルージュの手紙」のマルタン・プロボ監督によるコメディ。1967年。フランスのアルザス地方にある花嫁学校、ヴァン・デル・ベック家政学校には今年も18人の少女たちが入学してきた。経営者である夫の突然の死をきっかけに、校長のポーレットは学校が破産寸前であることを知る。ポートレットが、なんとか窮地から抜け出そうと奔走する中、パリで5月革命が勃発する。抗議運動がフランス全土に広がってゆくのを目の当たりにしたポーレットや生徒たちは、これまでの自分たちの考えに疑問を抱き始め、ある行動に出ることを決意する。ビノシュがポーレット役を演じるほか、「セラフィーヌの庭」のヨランド・モロー、「カミーユ、恋はふたたび」のノエミ・ルボフスキーらが顔をそろえる。

5月の花嫁学校 : 作品情報 - 映画.com

 f:id:tant_6v6:20210804152721j:plain

前評判を調べてみるとどうやらミュージカル仕立てになっており、脚本に若干の唐突感があるという感想を持った人が多いようで、ミュージカルが苦手な自分は警戒しつつ鑑賞に臨んだ本作。

結果的には、初めてミュージカル的演出の必然性を理解することができた大変すばらしい作品だった。

 

身寄りも財もなく他に選択肢がない状況で年上男性と結婚し、何十年も良き妻として仕え、それが正しいと信じ教育もしてきた主人公・ポートレット

 

突然夫が死んだことで、実は何の権利も与えられずーー帳簿すら見られずーー自分が抑圧されていたことに気づく。

そして、そのような役割に収まることを良しとして家政学校の娘たちに押し付けていたことも気づき、学校の運営、ひいては自分自身の生き方について考え直し始める。

 

まず、当然ながら、主演がとても良かった。上手いし感情表現豊かだし、何より終始楽しそうなのが見ているこちらも幸せな気分になれ良かった。

また、中年の女性が主演となることはそう多くはないので、そういった意味でも見ていて気持ちのいい作品だった。

 

今までは、自分の中でミュージカル=突然歌い出すもの、意味がわからないものという認識で苦手だったのだが、今回は「良い妻」からの精神的解放+都市に出る高揚感+国全体の革命ムードの中、歌い出さないほうがおかしいくらいの必然性があった。

主人公ポートレットはもちろんのこと、それまで沈んだ顔をしていた生徒たちもがいきいきとした表情で全身を使って感情表現し、自己を解放する姿に、思わず涙がこぼれた。 

 

メッセージとしては真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐな映画だったが、そもそも女性が出て意味のある会話をする映画自体があり得ないくらい少ないのだから、たまにはこういう映画があってもいいと思う。

 

また、ビジュアルについては、服装や家具は本当に可愛らしかったし、印象的なカットもたくさんあり、映画自体が芸術作品として美しい仕上がりだった。

 

疲れた時、落ち込んだ時に繰り返し観たい作品。確実に今年のお気に入りの中の一つ。

 

★★★★★